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では、金融リテラシーはどうすれば身に付くか?

筆者はファンドマネージャーをやっていた関係で、周囲からは金融の専門家だと思われているらしく、よく「金融リテラシーを上げたいのだが、どうしたら良いか」という様な質問を受けます。 


金融リテラシーと言ったときに、それが何を指しているのかは大変あいまいなのですが、ニュアンス的には、「金融の専門家には、何か得体のしれない錬金術のようなものがあって、それを知っている人はそうでない人よりお金が儲かる/賢く生きられる、のではないか」という含意があるように思います。  

確かに、高度なファイナンスの知識があれば、多少は投資の際に有利に働くことはあるかもしれませんが、LTCM(*)のような人類最高レベルの頭脳を持つノーベル賞受賞者が集まったとしても、マーケットで勝ち続けることが難しいように、それが魔法の杖になることはないように思います。
従って、「リテラシーを上げたい」ぐらいのレベル感で、何か生活が大きく変わることはないですし、それ以上の水準を目指すことも、それを業としない限りは必要もないと思います。


他方、金融リテラシーが著しく低いと、“喰い物にされる”という現象は割と巷にあふれているので、これを見分けられる程度には賢くなっておいても損はないかもしれません。

では、金融リテラシーの低い人というのはどういう人でしょうか。  

典型的なのは闇金ウシジマくんに登場する多重債務者のような人達だと思いますが、ご存じない方のために一節を引用します。 

ウシジマ君 


 主人公のウシジマ君は、違法な闇金融を営むいわゆる情強で、10日で5割(トゴ)という法外な金利で、まともな金融機関から借りられない多重債務者に少額の貸付を行います。基本的にハナから全額回収しようなどとは思っておらず、1万円を貸して10日後に金利分の5千円だけを回収し、次の10日後にも同様に5千円を回収・・・(以後、債務者が飛ぶまで永遠にループ)を繰り返します。

 2回目の回収まで成功すれば元本回収で、以降が利益になりますが、2回の回収を成功させるのも正攻法ではまず無理なので、脅し、透かし、時には善人の顔も駆使して、他の債権者よりも早く債務者から回収してゆく必要があります。言ってみれば、ルール自由・なんでもありのババ抜きゲームですね(当然ですが、全て違法行為です)。  

さて、作品に出てくるお刺身が食べたい老婆ですが、パチンコ依存症で次の年金支給日までに資金が底を尽いたため、ウシジマ君の所からつなぎ融資を出してもらっています。お刺身が好物なのですが、金利でほとんど持っていかれる生活なので、もう何年も口にしておらず、そこで口をついて出たのが作中屈指の名ゼリフ「お刺身食べたいなァ」です。 


この老婆を見て、「滑稽だ」、「なぜパチンコを止めないんだ」、「なぜそんな所から金を借りるんだ」、と思った貴方は正常です。しかし、資金使途をアパート建設、借入先をス〇ガ銀行に置き換えると、どうしてそんな立地でアパート経営が成り立つと思ったのか?、仮想通貨のGOX事件に置き換えると、どうしてそんな会社に資金を突っ込んで戻って来ると思ったのか?…etc.と、小一時間問い詰めたくなるような事件は枚挙に暇がありません。 


アパート建設でも、仮想通貨でも、保険でも投資信託でも、筆者から見れば金融リテラシーの低い人々の行動様式はパチンコ老婆と比較して本質的な差は感じません。だから、いつまでも狩られる側なんだと感じざるを得ないわけです。 


 ★★★ 


 筆者は、つまるところ金融リテラシーとは心の所作ではないかと思っています。金融関連の知識を持っていることとは直接的には関係がなく、金融機関で働いているとか、算数が得意であるとかとも関係はありません。銀行・証券に勤めていても、算盤1級でも、金融リテラシーの低い人はゴマンといます。 


 それでは金融リテラシーの高い人は何が違うんでしょうか? 


 1円の誤差でも“なあなあ”にしない姿勢 


昔の話で恐縮ですが、最初に勤務した商社で入社1~2年目ぐらいのときだったと思います。筆者の上司は、某都銀から転職してきた方でした。前職で彼はいわゆるエース行員だったのですが、銀行同士の統合で吸収される側の出身でしたので、もう未来はないということで転職に踏み切ったそうです。当時、商社も本格的に投資業務へ舵を切るようになり始めた頃で、金融の分かるプロ人材は各社こぞって採用していた時期でした。  

筆者は部門の投資管理の仕事で、投資先のリスクアセットを計測するため、各所のデータベースから色々な数字を取ってくる必要がありました。商社の取扱う金額というのは、数百億円のオーダーです。そして、異なる目的で管理されている色んな切り口のデータを統合して集計し直すと、ちょっとずつ数字が違ったりするわけです。  

ちょっと前まで学生だった筆者は、億のオーダーの数字を扱っていると、そりゃあ10万円ぐらいの誤差は出るものだろうと思っていて、だいたい合っているのでOK~、というノリで分析結果を提出しました。そこで、上司にメチャメチャ怒られたわけです。 


「商社に来てみて思うけど、みんな数字にいい加減すぎる。銀行なら、支店で1円でも残高照合が合わなかったら、原因が分かるまで全員家に帰れない。」と。 


最初は、「うわ、細かいなこのオッサン。面倒臭い上司に当たってしまった~」と思ったものですが、仕方なくその細かい差異の原因を調べてみると、全社にまたがってとんでもなく深い階層まで遡ることになり、結果的に、会計の仕組みや外貨管理だけでなくITシステムの全体像まで勉強するハメになり、とんでもない作業になりました。 

その後も、事あるごとにこの調子で、差異を許さない上司の下で徹底的に原因究明の仕事を課されたわけですが、投資銀行が作ったフィナンシャルモデル(注:投資実行の際の将来計画を変態的なエクセル技能で構築した作品のこと)で違和感があれば、数式全部を紐解いていくことになり、戦略コンサルが作った市場レポートに納得いかない点があれば、各国の政府機関に定義を問い合わせたり…、数字にすると誤差のレベルであっても、その裏側には神羅万象が包含されていることが分かりました。  

そんなこんなで数年経ったころには、何十年も勤めている先輩社員よりも、投資業務に関しては専門的になっており、(商社における投資業務自体が、まだ黎明期だったこともありますが)、若くして実質的に何でも意見が通るようなポジションを得ることになりました。 


 このことと金融リテラシーに一体何の関連があるのか、ということですが、「ほとんどの人は面倒なことを調べずに分かった気になる」ということです。商社のように学歴エリートが集まる組織ですら、そうなのです。 

住宅ローンを組むときに、金利水準ぐらいは注目するでしょうが、銀行手数料や印紙代、登記費用まで計算に入れている人は少ないでしょう。給与明細の控除アイテムがどう計算されているか、人事部任せではなく自分で考えている人もあまり見たことがありません。  

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冒頭の老婆も、パチンコが期待値マイナスのゲームであることを調べようとしませんし、多重債務の解決法を調べようとしません。サラリーマンは、サブリース契約の約款を読みませんし、仮想通貨取引所の手数料がボッタクリレベルなことに気づきません。  

金融とは契約の産物ですから、お金に関する取り決めは基本的に書面に残りますし、ルールも厳格に定められています。つまり、答えのない多くのビジネスと違い、調べれば必ず答えがあるのですが、細かいことを“なあなあ”で放置することに疑問を持たない人は驚くほど多く、結果的に狩る側の養分になっているというのがこの世界の構造ではないでしょうか。

 金融リテラシーとは、1つには、1円単位まで原因を追求する姿勢であると言え、知識は事後的についてくるものだと言えそうです。ですので、金融機関に勤めていても、そういう姿勢を持たない人は、何も分かっていないことは沢山ありますし、知らないまま意思決定を行って痛い目に合うのも決して珍しいことではないのです。 


 時間の感覚とトレードオフ 


 金融リテラシーのもう1つの特徴が、時間間隔を伴ったトレードオフが理解できるか、ということです。

お刺身の老婆の例で言えば、今行われるパチンコへの消費と、それを控えることで得られる将来のお刺身というトレードオフのなかで、どちらかを選択するというシチュエーションに非常に弱く、常に手前の欲求の方に負けてしまうのです。  

金融の基本は金利という概念ですが、これは時間と切っても切り離せないものです。貨幣制度は、価値の保存が効くという点が最大の利点ですが、それはとりもなおさず、価値が時間を超えて維持されるということです。 

金融リテラシーの高い人というのは、将来のある地点からの逆算という思考が自然に体得されているように思います。そして、経営の世界ではこれをPDCAと呼ぶのです。金融機関出身者で経営者として活躍している方が多いのには、金融面の知識というよりは、こういう時間感覚というか、計画達成にむけて今を変えていくという行動様式がフィットしているという点が大きいのではないかと思います。  

余談ですが、筆者の知る限り、投資銀行などの高度な金融プロフェッショナルには、マラソンとかトライアスロンとか、キツイ個人競技を愛好している人がなぜか多いのですが、自分を律することと金融リテラシーとは無縁ではないように感じています。  


細かいことを調べない人が多いのと同様に、今の状態を続けると将来どうなるか、或いは将来のN時点で〇億円得るためにはいくら積立てる必要があるか、といったことを「考えない」人も驚くほど多いように感じます。そして、これらの簡単なことが行えない人達も、決して知能に問題があるわけではなく、「分かっているのにやっていない」というケースがほとんどではないでしょうか。 


 ★★★ 


 金融リテラシーというバズワードでまとめると、本質が見えなくなりますが、ベニスの商人の時代から今日まで金融業が儲かる仕事であるのは、プロダクトに絶対的な優位性があるということではなく、利に聡く“細かい”人間が一貫してこの業に関わっているからではないかと思います。 

「日本人は金融リテラシーが低いから、小学校で金融を教えるべきだ」というような言説を見かけますが、果たしてそうなのでしょうか。感覚的には、日本人は人類全体からみれば相対的に細かい方だと思いますし、調べようとしないまでも、「よく分からないので投資せずにタンス預金」というのは、考えようによってはリテラシーが高いとさえ言えるかもしれません。 

また、ITリテラシーもおそらくは金融リテラシーと構造的には似たようなもので、なぜネットがつながるのか、パソコンの原理はどうなっているのか、といった基本的なことを面倒でも調べる姿勢の有無が、結局はリテラシーの有る無しにつながるのではないかと思えます。 (その意味では日本人のITリテラシーは金融リテラシーよりも低いと思います。ITというだけで思考停止している年配者は偉い人にも多い。)


要するに、金融もITも、自分のアタマでかんがえよー、ってことです。 
そんじゃねー。


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alphalifehacker

Author:alphalifehacker
  
腐ったこの国を買い叩くためハゲタカ阿修羅道に足を踏み入れた、元PEファンドのファンドマネージャー。更にその前は商社マン。

「お金を稼ぐことはいけないことでしょうか?」

いいえ、お金に罪はありません。ありません、が、数々のビジネスを経験してきた筆者のたどり着いた1つ答えは、富裕層と呼ばれるまでの財を成した人は例外なく”ワルい”ことをしているということ。

社会の裏側・お金と人間の悲喜こもごもをこの目で見てきた筆者の体験をもとに、エコノミック不良(ワル)と無辜な庶民はどこが違うのか、実生活に役立つ形に解釈し直し、発信して参ります。

このサイトに来ると少し賢く生きることができるかもしれない、アルファライフハッカーのブログです。

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