記事一覧

流行の兆しを見せるアジャイル組織を斬る

アジャイルな企業。経営の世界で、最近とみに目にすることが多いワードではないでしょうか。Agile:[敏捷な、頭の回転の速い]、と言った意味を表す単語で、筆者が初めて耳にしたのは4,5年前のHarvard Business Review(HBR)のPodcastで、セールスフォース社を取り上げていた回だったように記憶しています。

そのときは、組織の決断を早くするのがAgileで、エクセレントな会社になるにはAgilityが大事なんだという主張を聞いて、「何を当たり前のことを…」と思ったものです。そりゃあ、決断が早ければ遅いより良いに決まっています。

この言葉が今なぜ脚光を浴びているのかと言うと、ITサービス企業のように顧客フィードバックが直接かつ一瞬で得られる時代には、現場のアイデアを上にあげて経営がリソース配分を決めていく、という従来型の中央集権的スタイルでは競争力を失っていくという命題があるのでしょう。即ち、それ以前の世界では、断片的な市場の情報から正解を推測していくという作業に経営のエクセレンスがあったものが、その場で判断に足る情報が直接得られることになり、現場セクションでPDCAが完結できる競合がいる場合、そうでない組織とは競争力に大きな差がついてしまうということです。


“アジャイルな組織の条件” ー原文はこちら
  • focused on a major business opportunity with a lot at stake
    (不退転の決意で最重要課題に取り組むこと)
  • responsible for specific outcomes
    (結果にコミット)
  • trusted to work autonomously—guided by clear decision rights, properly resourced, and staffed with a small group of multidisciplinary experts who are passionate about the opportunity
    (小規模なチームに裁量を与えて託す)
  • committed to applying agile values, principles, and practice
    (アジャイルな組織の持つ意義を大いに共有する)
  • empowered to collaborate closely with customers
    (
    すべては顧客のためにという意識がバイブル)
  • able to create rapid prototypes and fast feedback loops
    (迅速なPDCAを現場で回す)
  • supported by senior executives who will address impediments and drive adoption of the team’s work
    (トップに現場を信じる度量があるか)
う〜ん、全てそうでないより、そうであった方が良さそうな、でも何言ってるかよく分からないフワッとした主張ですね。。。



【トヨタ生産方式がアジャイルの本質】


先のPodcastを聞いたときから、HBRのスピーカーは何か凄いことを発見したような口ぶりでしたが、ふーんとしか思えなかったのは、それってつまりトヨタ生産方式(TPS)じゃないか、と思っていたからです。TPSの中心にある「自工程完結」「前工程は神様、後工程はお客様」という考え方は、まさにアジャイルな経営そのものと言えるでしょう。

後工程を顧客と考え、自分の工程で分析~解決までを完結できるライン、そしてそれが無理なく機能するラインのサイズ、ミッションの範囲。こういうことを徹底的に突き詰め、工業生産の世界で天下を取ったのがトヨタ生産方式で、同じようなことを経営というレイヤーで実行してみせたNetflixやING銀行などの成功が、言葉を変えてもてはやされているという現象だと考えています。


※TPSについては、様々な書籍があるのですが、TPSをセールス等にも応用させるというユニークな発想でコンサルティングを行ってこられた鈴村尚久氏の著書は、アジャイル経営に通じるものもあっておススメです。



「後工程はお客様」というコンセプトは、大企業の特に管理部門の連中には耳の穴かっぽじって聞いて欲しい考え方ですね。日本企業の癌は、得てしてこの肥大化した管理部門なのですが、彼らは牽制機能という大義のもと、組織のAgilityを奪います。そして高名なミルグラムの実験で明らかなように、権威を与えられた管理部門は一円の収益も生まない組織でありながら、神の視座で現場の邪魔をすることに、自らの使命を見出すようになるのです。

HBRが賞賛するアジャイル企業とはつまり、管理部門でさえミッションドリブンで、現場の邪魔するのではなく、自律的にソリューションを提案していくような企業、ということだと解釈しています。





【決断の速さより、自律的な組織の方が注目のポイント】



さて、何でもそうですが、この種のグロービス()の好きそうなテーマでは、何をやるべきかというWhatの部分で完結していることがほとんどなんですよね。しかし、実務ではそのコンセプトをどうやってリアライズするか、そちらの方に実は力点があります。どんなに素晴らしい経営テクニックを思いついたところで、それを実際に行うのは会社にいる1人として同じではない意思を持ったヒトの集団なのです。

アジャイルな組織でも自工程完結でも、成功した会社ではなぜスタッフが自律的に動くようになるのか。筆者はそちらの方に興味があります。自工程完結にまつわるWhatについては、アンドンやらカイゼン提案やら様々な事例が周知されていますが、なぜライン工達がモチベーション高く自発的に働くようになるのか、その辺りの機微が解説された書籍を目にしたことがありません。


では彼らを動かすもの、それは何なのか。筆者は報酬とキャリア、この2点に集約されると考えています。トヨタの場合、ブルーカラーの給与水準は日本屈指のものがあり、特に三河地区ではトヨタの工場で働けることは大変なステータスなのです。TPSを支える一番大きな要因について、筆者はこの点が非常に大きいと考えています。

キャリアとは、その仕事や組織に関われることが個人にとって価値を持つ状態を意図していますが、キャリアの報酬は将来的にキャリアアップという形で金銭的な報酬に反映されるので、究極的には、お金ということになると思います。


例えば、NetflixやGoogleなどの成功しているミレニアル企業の成功の要因を分析したベインの研究によると、彼らのやっていることは極めてシンプルで、一番重要なプロジェクトに一番モチベーションの高い優秀なスタッフが集まっているから、ということのようです。これらの企業では“重要なミッションに関われる”ということが、一種の報酬として機能しているのだそうです。

上述の研究では明示されていませんでしたが、要するに、Googleで一番重要なミッションに関われるということは、テック界では最高の名誉ですし、そのキャリアがあればたとえ今すぐではなくとも将来のどこかで確実に金銭的なリワードも期待できる。そういう仕事に関われるのであれば、チームのメンバーは皆、ミッション実現に向けてアイデアを出し合います。そして、フロントだけでなく、間接部門まで含めてチームに所属するメリットを見せてやることで、フロントを止めてばかりの批評家にならず積極的に協力するようになる....  という仕組みが作り上げられているのです。


まさに、アジャイルな組織。


まあこれは、筆者に言わせれば王者の戦い方、トップの戦略ですね。Googleはもちろん相当な報酬を出してはいると思いますが、かの地に集まる俊英達が並々ならぬ熱意を持って働くことに対する報酬としてはお安く済んでいるのではないかと思います。だからこそ、株主には大きな超過利潤が出るわけです。スタッフ達はGoogleでの経験を足場にその次のキャリアでより大きな報酬を得るでしょうから、いわばGoogleは彼らの転職先のコストで、優秀なスタッフを相対的に安価に活用できているのです。

Googleのようにキャリアとしての圧倒的なブランドを持つことは普通の会社では難しいと思いますが、報酬を出すだけならどの会社でもできますし、報酬を1単位増やすことによって、会社の利益がそれ以上増えるなら、迷わず実行すべきなんです。そしてこれは、正の方向だけでなく、負の方向にもちゃんと働く性質のものなので、日本企業の硬直した賃金体系で働くサラリーマンは、報酬を1単位不当に下げられているせいで、会社の利益はそれ以上に減っている状態ではないかと想像しています。







PEファンドが投資先の経営改善に成功する事例は、(あるとすれば)ほぼ例外なくこのパターンです。経営を改善するに当たって、何をしなければならないか、これは多くの場合ちょっと考えれば明白なのです。しかし、それを企業という集団にどのように実現させるべきかについて真面目に考えている企業は実はほとんどありません。特に日本企業はこれが苦手。

だからこそ、バイアウトされて仕組みを変えてもらった方が、社員にとってはハッピーになることが多いのではと個人的には思いますが、別に外圧に頼らなくったって、トップがその気になれば明日からでも実現できるはずなんですけどね。

確かに、どうリスクとプロフィットをシェアさせるかという点については、本が1冊書けるくらい論点が沢山あるとは思いますが、そんなことは導入して、走りながら考えれば十分だと思います。まあ、問題はどこかで必ず生じると思いますが、日本の企業ならこれだけで業績は間違いなく上がります。(※まあこの辺の感覚は、一度もプロフィットシェアしたことない人しかいない組織だとなかなか想像できないと思いますが、世界が変わったかと思うほど仕事が楽しくなります)


働き方改革って、育休とかテレワークとか、果たして収益に直結するのか誰も説明できない謎の制度導入することじゃなく、こういうことを変えていくべきなんじゃないでしょうか。
そんじゃねー。



関連記事:

スポンサードリンク

↓Twitterでフォロー↓

プロフィール

alphalifehacker

Author:alphalifehacker
  
腐ったこの国を買い叩くためハゲタカ阿修羅道に足を踏み入れた、元PEファンドのファンドマネージャー。更にその前は商社マン。

「お金を稼ぐことはいけないことでしょうか?」

いいえ、お金に罪はありません。ありません、が、数々のビジネスを経験してきた筆者のたどり着いた1つ答えは、富裕層と呼ばれるまでの財を成した人は例外なく”ワルい”ことをしているということ。

社会の裏側・お金と人間の悲喜こもごもをこの目で見てきた筆者の体験をもとに、エコノミック不良(ワル)と無辜な庶民はどこが違うのか、実生活に役立つ形に解釈し直し、発信して参ります。

このサイトに来ると少し賢く生きることができるかもしれない、アルファライフハッカーのブログです。

Current Tweets

Amazon Link